顎関節症(がくかんせつしょう)という病気の名前を聞かれたことはありますか?
顎関節症はお子さまから高齢の方まで幅広く見られる病気ですが、年齢別で見ると、11歳頃から患者数が急増し、とりわけ20〜30代の女性の方に多い事が知られており、矯正歯科治療に訪れられる患者様にとっても関係の深い病気です。
この顎関節症と矯正治療についてご説明させていただきます。
顎関節症とは?
顎関節症を簡単に言うと、顎の関節とその周囲の組織に何らかの異常が起こって、「口を開け閉めすると痛い」「口を大きく開けられない・閉められない」「口を開ける時に顎関節から音がする」を主要な症状とする慢性疾患の診断名の事です。
顎関節症はどういった時に痛みが出るのでしょうか?
「食事の時に硬いものを噛んで顎が痛くなったけれども、しばらくしたら自然に治った。」という軽い症状から、口が思うように開けられなくて食事にも支障をきたしたり、肩こりや頭痛、めまいなどの全身症状を伴って日常生活や精神面にも影響を及ぼす重症のものまで症状は様々です。
軽い顎の痛みを自覚してそのまま治ったものまで含めると、日本人の2人に1人は何らかの顎の異常を経験しているとも言われています。
顎関節症の原因は?
顎関節症を引き起こす因子は単一でない場合も多く、それらが積み重なってその人の顎関節の耐久できる限界を超えると症状を発症すると考えられています。
つまり、たとえ同じ原因があっても発症する人としない人があり、今発症していない人であっても顎関節に悪影響を及ぼす因子を積み重ねると顎関節症を発症する可能性があるということです。
<顎関節症の原因となりうる因子として考えられるもの>
- 歯ぎしり・食いしばりの癖がある人
(寝ている間や仕事・勉強等で無意識的にやってしまっている場合や癖がある人) - 歯の噛み合わせにトラブルのある人
- 食事の時に左右どちらか片側の歯でばかり噛んで顎関節への負担が偏っている人
- うつぶせ寝や頬杖、顎の下に電話を挟んで話す、猫背など顎関節に負担のかかる姿勢をとっている人
- 外傷で顎関節や靭帯を損傷した人
- 関節に関係のある全身的疾患(リウマチなど)がある人
顎関節の治療は?
顎関節の治療も他の治療と同様、上記でご説明させていただいたような原因の把握が大切であり、その原因に対する処置が理想的です。
しかし、前述しましたとおり、原因は多岐にわたっている場合も多く、またある程度特定できたとしてもその原因を取り除くことが容易でない場合や原因を除いてもすでに顎関節の構造に問題がある場合も多いため、対症療法が主流となります。
とはいえ、顎関節症は、顎関節を安静にすることにより、経過が良好な疾患で約80%の症状が自然と治まるとも言われております。
顎関節を安静にするというのは、痛みのある時には上下の歯をできるだけ接触させずにする、硬いものを食べず口を大きく開けないようにする、顎関節に悪影響を与える生活習慣をできるだけ避けるようにする、軽いマッサージをするなどです。
症状が長引く場合には、一般的にスプリント療法が行われます。これは、スプリントと呼ばれるマウスピース型の装置を装着して、歯や顎関節にかかる負担を軽減するものです。
症状が重い場合には、外科手術を行う場合もありますが、顎関節症の治療のために外科手術を行うことは現在少なくなっています。
顎関節症になった時には顎の安静に努めるようにし、顎関節症を招きやすい生活習慣のある場合には改善をするようにしましょう。
もし矯正治療中に顎関節症が発生した場合には?
基本的には一般の顎関節症の治療を行います。
関節雑音(顎を動かすと音がなる)はあっても、痛みや開・閉口障害(口が開けづらい・閉めづらい)が無い場合には、特別な対処は必要無いことが多く、経過観察しながら矯正治療を継続します。痛みや開・閉口障害がある場合には、状況により矯正治療を一時中断し、一般的な顎関節の治療を行います。
矯正治療を受けた人と受けなかった人とで顎関節症の発症に全く差が無かったことが多くの研究で認められており、矯正治療が顎関節症の原因となることはありません。
矯正治療と顎関節症の治療は各々独立したものとしてとらえていただくとよいでしょう。
現在まで、当院にて矯正治療を受けていただいた方で、矯正治療前にすでに顎関節症をお持ちの方は除いて、矯正治療中、後に新たに顎関節症状が発生した方はほとんどおりません。