歯科麻酔の効いている時間
歯科治療をする時に、痛みを抑えて治療を行いやすくするために麻酔を使う機会は少なくありません。皆さんも、一度は歯科麻酔を経験したことがあるのではないでしょうか?
歯科麻酔の効いている時間は患者様により個人差がありますが、一般的に1時間〜3時間程度です。歯科治療の内容や麻酔法によっては6時間近く麻酔の効果が続くこともあり、「思っていたよりも麻酔の効いている時間が長かった(短かった)」という感想は患者様からよく伺います。
それでは歯科麻酔の効いている時間を左右するものは何なのでしょうか?
日常の歯科治療でよく用いられる局所麻酔を中心にご説明いたします。
歯ぐきに注射を打って麻酔する方法が局所麻酔ですが、この麻酔法には次のような分類があります。
表面麻酔法
麻酔薬を含んだ薬剤を歯ぐきの表面に塗っておいて歯ぐきの表面の感覚を麻痺させる麻酔法です。この麻酔法は、歯そのものの感覚を麻痺させる浸潤麻酔法や伝達麻酔法の準備として行われることの多い麻酔法です。麻酔注射を打つ周囲の歯ぐきに数分間作用させて注射針の刺さる痛みを抑えます。
表面麻酔は歯石を除去する時や、乳歯の抜歯の時などにも用いられ、麻酔の持続時間は約5分間です。
浸潤麻酔法
歯科治療を行う歯の周囲に注射液で麻酔薬を注入する麻酔法です。
麻酔薬が歯肉や歯を支える歯槽骨にしみ込むように広がっていき、歯の中心にある歯髄の神経を麻痺させて歯科治療中の痛みを抑えます。
注射と聞くと反射的に「痛い!」と思ってしまいがちですが、浸潤麻酔に使われる注射針は糖尿病のインスリン注射の針に次いで細い針なので、針を刺す痛みはかなり改善されています。また、注射液が注入される圧迫感が苦手な方もおられるでしょうが、注射液の注入速度をコントロールできる電動式注射器も開発されており、痛みの不安なくよく効く歯科麻酔が行えるようになっています。
浸潤麻酔法では通常、1〜3時間麻酔効果が続きます。
伝達麻酔法
下顎の奥歯は骨の厚みがあるので、浸潤麻酔だけでは十分な麻酔効果が得られないことがあります。そこで下顎の一番奥の奥歯のさらに後方にある、下顎の歯の感覚を脳に伝える神経が下顎骨の外に出てくる場所の周囲に麻酔薬を注入して、注射した側の下顎全体の歯の感覚を麻痺させ、十分な麻酔効果を得る麻酔法です。この麻酔法は、脳に向かう歯の神経を直接麻痺させるので、奥歯の治療で確実な麻酔効果が得られます。けれどもその分、治療とは関係の無い広範囲に麻酔薬の作用が及び、なかなか麻酔効果が抜けにくいという欠点もあります。
また、伝達麻酔の持続時間は長く、6時間近くになることもあります。
伝達麻酔法には、下顎から出ている神経を麻酔針で誤って傷つけてしまうリスクもあるので、現在ではあまり積極的に行われてはいません。
歯根膜麻酔
歯と歯を支える歯槽骨の間にある薄い膜の歯根膜に細い注射針を差し込んで注射液を注入して歯を麻痺させる麻酔法です。
十分な麻酔効果が得やすく、伝達麻酔のような神経を傷つけるリスクや広範囲にわたる麻痺感がありません。麻酔液の使用量も少量でよく、麻酔特有の痺れた感覚が無く治療を行うことができます。そのため、伝達麻酔に代わって浸潤麻酔よりも確実な麻酔効果を期待して使われることの多い麻酔法です。
ただし、歯根膜麻酔は極めて狭い空間の歯根膜に麻酔液を加圧しながら注入していくので、注入量や注入スピードに注意しながら行わないと、治療後に歯を叩くと痛みを感じる打診痛や歯が浮いた感覚が強く出ることもあります。
歯根膜麻酔の持続時間は20〜30分ほどです。
このように、歯科麻酔にも目的に応じていくつかの種類があり、それぞれの特徴があります。
矯正歯科では矯正装置の装着前に虫歯の治療や抜歯などの処置を行うことも少なくないので、歯科麻酔を使っての治療が必要になることもあります。麻酔の効く時間は個人差も大きく、同じ麻酔薬の量でも効き目は人によってかなり違いが出てきます。今回ご紹介した大まかな目安を参考に、麻酔効果の残っている間はお口の中のやけどやけがなどにご注意されてください。